クラスで文化祭の出し物なにするか話し合ったんだけど、なんか提案出せっつっても誰もなんも言わねーの。
俺は人力メリーゴーランドとかいっぱい提案してんのにさ。
相手から意見をもらう時は、言いやすい雰囲気をつくることの方が重要じゃぞ。
コミュニケーションは両者の伝える・聞く努力のバランスがあって初めて成立するんじゃ。
でも言いやすい雰囲気つくったじゃん。「言って」ってさ。
「宿題やりな」って言えばお主はやる気になってくれるんかの?
…ッスー、あっ、チョット急用ガ・・・
・・・人力メリーゴーランドってなんじゃ?
Inhaltsverzeichnis
誰かを犠牲にしてしまうコミュニケーションから卒業しよう
例えば、次のような場面にあったとき、あなたはどう行動しますか?
周囲の状況を認知する能力が足りないゆえに、悪意なくこの行動を取ってしまう人もいます。が、ワガママな態度で強引な人も多く居るのが事実です。
このとき、ほとんどの方が以下の2タイプに分かれるのではないでしょうか。
- 「え、なんで抜かしてんの?」と相手に対しハッキリ主張するタイプ
- (あ、私が先に並んでたのに…)と思ってても言い出せなくて我慢するタイプ
この2つのタイプを『攻撃的自己表現』と『非主張的自己表現』に分類することができます。
攻撃的自己表現
相手より優位に立とうとする態度のことを指します。勝ち負けで立場を決めることに固執したり、上下関係を強調しがちな人にも当てはまります。
人には『支配欲求』というものがあり、“相手を思い通りに操ろうとする” 良くない思考をもって他人に関わろうとする者たちがいます。
通常は理性が働くことによって他者の人権を侵害しない道徳観念が働きますが、攻撃的自己表現のタイプに当てはまる人は理性より支配欲が勝ってしまいます。
- 議論など話し合いの場面で、相手に反論の余地を与えず一方的に主張する
- 「キレた方が速く伝わるから」と利己的な理由を掲げる
- 「あなたのためだから」と相手の意見を否定する
- 「普通」「一般的」「当たり前」「みんなは〜」を理由につける
以上のタイプも、攻撃的自己表現に当てはまります。
相手に言うことを聞かせる方が手っ取り早いですが、そのやり方が合理的だというのは矛盾しています。
そのやり方が良いというのなら、一方的な主張に従う権利を相手にも同じ分だけ渡さなければ、ただの傲慢でしかありませんからね。
非主張的自己表現
日本人は圧倒的にこのタイプが多いです。
というのも、日本では幼い頃から「相手を大切に」と教えられがちです。
しかし「相手を大切に」という言葉の裏には「自分を犠牲に」という意味になってしまう短所が含まれてしまいます。
“自分をちゃんと大切にしながら相手を大切にするスタンスを取る” という器用なことが出来れば良いのですが、大抵はそこまでの意味合いを考えずに「相手に優しくしなさい」と言われます。
これでは「相手に優しくする」の意味が「自分のしたいことは我慢する」ということになってしまいます。相手を尊重するのも重要ですが、その風習がうつ病などを招く原因につながります。
非主張的自己表現の特徴は、「自分の気持ちを表現すること」をためらってしまう傾向にあります。
- 「空気を読め」に従って我慢してしまう
- 理不尽なことをされても文句を言えない
- 「どうせ言ったところで…」と行動する前から諦めてしまう
- 立場や権力を使って横暴する相手にも抗えない
「自分さえ我慢すれば、この場が丸く収まるから・・・」と周りのために行動するのは立派なことですが、そのために被害を黙認してしまうのは、正しくないことですね。
「アサーション」とは
アメリカの心理学者ウェルピーは、カウンセリングの手法として『アサーション』を定義づけました。
『攻撃的自己表現』では、相手のことを尊重する意識が足りません。
『非主張的自己表現』では、自分のことを大切にする意識が足りません。
この両論の欠点を補完した、自分も相手も大切にするコミュニケーション技術。
それが『アサーション』です。
具体的には、自分の気持ちや考えなどを正直に・率直に・その場にふさわしい方法で表現することを指します。自己主張の程度は相手によって、もしくは環境によって変化していく必要があります。
また、相手はコミュニケーションが上手でないこともよくありますから、この『アサーション』はいつでも誰でも完璧に使いこなすことの出来る万能な技術だとは思わず、「うまくいったらラッキー!」くらいの感覚でいることが大切です。
「私はこうしたい」を言えること
まずは自分の気持ちを理解する
中学生に指導をしている際に「どうしてそう思ったの?」と聞いてみると、「わからない。」「なんとなく。」と返答をする子がよくいます。
この「わからない」「なんとなく」と答えてしまう人は、
- 「今の自分がどう感じているのか?」という自身の感情・意思を、認知・理解することが出来ていない
- 抱いている感情・意思の表現方法が思いつかない、どう言えばいいかが分からない
このどちらかに当てはまっているのではないでしょうか。
まず、【今の自分がどう感じているのか】を考えることが出発点です。
感情・思考・行動には必ず理由があります。
普段の日常生活においても、あなたが何かを感じたり、行動を起こしたりするのには必ず理由があります。
けれど、改めてきちんと自己分析をしなければ、「なんで自分は怒っているのか?」に気付くことも出来ないまま周りに八つ当たりをしたり、「どうして何も言えなくなってしまうのか?」に正しい解決法を導くことのないまま他人に従うしかない生き方を選ばざるを得なくなったりします。
「自分はこうしたい!」と的確に相手に伝えるためには、まず今の自分がどう感じているのか、なんでそう思ったのか、正確に理解するクセを身につけばければいけません。
感情のボキャブラリー
【Let’s try!】
メモ帳・タイマーを用意しましょう。
3分間で「気持ちを表す言葉」を
できる限り書き出しなさい。
「今の自分の気持ちはどうなのか?」をより正確に分析するためには、その状態にぴったり適合する言葉を知っておかなければいけません。一見するとたくさん思いつきそうですが、これがなかなか出てこないものです。
お試しに、3分間で「気持ちを表す言葉」を思いつく限り書き出してみましょう。
3分を計測しながら書き出す、ということを行なった後は、以下のNVCが公開している感情リスト(PDF)にてチェックしてみましょう。
気持ちを表す言葉は、思っている以上にたくさんありますよ。
・・・さて、結果はいかがでしたか?
たくさん出せる人でも10個くらい、というのがひとつの目安でしょう。
普段から形容詞を多用したりなど、ある程度の訓練をしていないと中々思うようにできないものです。
こうやって気持ちを表す言葉が全然出てこないということが、すなわち自分の気持ちを細かく感じることができていない、または自分の気持ちに適切な名前をつけることができていない証拠でもあるのです。
特に、「ヤバい」「すごい」「こそあど言葉」を普段の会話で多用してしまっている人は、こういった語彙力が身についていないことの証明になります。
他に表現する言葉があるにも関わらず、何にでも便利に使えてしまえるから「ヤバい」などの言葉を使ってしまう。その結果、ぴったり言い表せる言葉をいつまで経っても知らない・使えないままになってしまうのです。
伝わる技術
スピーチやプレゼンテーションをしたことがありますか?
これには自分の考えを相手に伝えるための技術が凝縮されています。
逆に言えば、的確な伝え方が分からない状態でスピーチなどをしても、聞いている側にとっては非常につまらない時間でしかありません。
この技術は、『作文の書き方』そのままのテクニックで攻略することができます。
つまりは
- 言いたいこと【主張・結論】は1つの話題につき1つだけであること
- 「結局なにが言いたいのか?」が常にハッキリしている意見であること
- 「どうしてそう思ったのか?」を相手に理解してもらえる語彙・文法・例を使って説明すること
が達成していることがまず必要な条件です。
話しているうちに、
- 内容が二転三転してしまい、話し始めにしていた話題に戻れない
- やたら冗長な説明を続けてしまい、相手に飽きられる
- 相手がイメージ出来ない例えを使ってしまい、「どういうこと?」と尋ねられる
となるのは、話すのが下手な人によくある事例です。が、これに該当する人ほど自覚がありません。
一般的に、人の話を聞き続ける集中力はおよそ1分ほどしか持続しないそうです。
1分半以上も話が続いてしまうと「長いなぁ・・・」と飽きられやすく、2分を超えるといよいよ耳を傾けてもらえなくなっていきます。
なので、相手に伝えたいときは『1分以内』という時間制限を意識して話せるように訓練することが重要です。
アメリカの超大手企業Amazonでは、会議のために作成する資料は『A4サイズ1枚』という決まりを設定しているそうです。
会議で話す内容はそれくらい集約させるものでなければ、効率や合理性に欠けるものである、という裏付けになります。
もうひとつ。
話し始めの『一言目』で、聞く側がどれくらい耳を傾けてくれるかが決まります。
例えば、小学校で校長先生が「交通ルールを守ろう」というテーマで話すとします。
このとき
えー、5月にもなり、だんだん暖かくなってきましたね。そろそろクラスにも馴染めてきたでしょうか。
特に聞く必要のない内容から始めてしまうと、聞く側が「聞こう」という気には中々なりません。
これが、
1035人。これは昨年、交通事故に遭った小学生の人数です。
という話し始めだと、馴染みなくて印象強いキーワードであり、聞く側はドキッとします。
しかも、これからどういう話をするのかが容易に想像できるので、聞く側としても内容が頭に入りやすくなります。
ポイントは、喋りながら話す内容を考えるのではなく、あらかじめ「どんな話を」「どの順番で」「どう伝えるか」を計画しているかにあります。
『作文の書き方』のテクニックを使って伝える内容をきちんと組み立てて、それを1分以内の内容となるようにまとめる。
それだけでもあなたの話は随分と聞きやすくなるかと思います。
価値観は違うもの
自分の気持ちを細かく理解し、考えを的確に相手に伝える。
そうやって自分のオリジナルの個性を大切にし、周りに発信することが重要だということです。
いつも他人と足並みを揃える必要はなく、「自分はこうしたい」と正直に伝えることが、自尊心を損なわずうつ病の対策にもなります。
覚えておかなければいけないのが、相手にもその権利があるということです。
ここまでは自己主張の方法についてでしたが、それだけでは相手に「自分勝手だな…」と思われかねません。こちらが意思を伝える分、相手にも同じ分だけその権利を渡さないと、不公平となり、コミュニケーションは失敗となってしまいます。
そのうえで、相手は適切な自己主張の仕方なんて知らない状態であることの方が圧倒的に多いはずです。
であるならば、コミュニケーションにおいてあらかじめ考えておかなければいけないことが山程あるのが現実です。
重要なのは、好き嫌いや優先したいものなど、価値観が人によって違うものだということです。
相手と考えや価値観が違って当然です。
同じ状況でも、人によってどう感じるかは異なります。
これは、生まれ育ってきた環境や境遇による長年の影響がもたらすものです。自分の意見が相手に受け入れてもらえないことはよくあることですが、価値観が異なればそれも必然です。
例えば、食べ物の好き嫌いの話はよくします。何が好きで何が嫌いかは人によって違うことはあなたも充分理解していることかと思います。
けれど、だからといって相手の好き嫌いの感覚が完全に理解できるわけではありません。たとえ同じものが嫌いだったとしても、度合いや理由が違えば価値観が食い違ってしまいます。
価値観の違いを察することは非常に困難です。寝食を共にし続けている家族でさえ「察する」ことが難しいのに、それ以上の他人相手に「分かってよ!」と主張するのはあまりにも横暴です。
なのでコミュニケーションを取ることによってその価値観の違いを擦り合わせる必要があります。
コミュニケーションには揉め事・葛藤・ストレスがつきものであり、それとどう向き合っていくかが課題となります。
ポイントは「お互いが納得できる選択に着地できるまで話し合うこと」。つまり妥協を求めることです。
ただ主張をぶつけ合ったりとワガママになるのではなく、自分と相手の両者を認め合い、歩み寄る姿勢を持つことが重要となります。
自分の意見を聞いてもらう分、相手の考えも聞き入れる。
相手の主張を受け入れる分、自分の主張も認めてもらう。
そのバランスを保ちながら何度も交互に意見を出し合って、お互いが納得できる意見にたどり着く努力をすることが、最善のコミュニケーションとなります。
私たちは誰もが自分らしくあってよい
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人間関係によって心が磨耗していく日々を経験している人は非常に多いことでしょう。
わたし自身も、一人で責任や負担を抱え込みすぎてバーンアウト症候群に陥ってしまった経験があります。
「しんどい……」そう思った時は、いまの自分がどんな状態なのか、どんな環境の中に自分が居るのか、まるで幽体離脱したかのように一歩離れた視点から己自身を見つめる必要があります。
『アサーション』は、人間関係・コミュニケーションの仕組みを客観的に考えるのに非常に役に立ちます。
これを学んだところで、すぐさま実際に活用できるようにはなれません。
自分の性格を変えるようなものですから、「何度も上手くいかなくっても良いや!」くらいの気持ちで何年もトライし続けてやっと、というようなものです。
ただ、「なるほど、こういう仕組みなのか」と理屈を頭に入れておくだけでも、知らないのとは全然異なるかと思います。
怒りっぽい人がいれば「ああ、この人は自分がなんでイライラしてるのか自覚してないんだ」と思うだけでこちら側のストレスは減ります。
『同じ状況でも人によって感じ方が違う』のですから、なるべくストレスを感じず鮮やかに対処できる日々を過ごせた方が良いですよね。
そのための手段のひとつとして、いつもの生活のお供に『アサーション』を具えててみてはいかがでしょうか。
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